ありったけの小銭を賽銭箱に投入しなければならないわが家のお参りでミラクル

つま  「たくさんコインを入れるといいんだって」
わたくし「誰説?」
つま  「你的媽」
わたくし「我的? 真的?」

つまですが、事がうまく運ばないと、突如お参りに行きたいと言い出したりします。
台湾人ですので、さぞかし信心深いのではと思われる方も。
しかし結婚して十数年、台湾で彼女がお参りをしている姿など見たことがありません。
そんな日本でのお参りでのお話。

とある火曜日の午前。
子どもを保育園に預け、会社に向かう途中の車内。
彼女が口を開きます。

つま  「行きたいんですけど」
わたくし「スターバックス? 新作?」
つま  「不是。それは後で。お参り」

どちらもかよ。そんなことは言いません。
無言で車を神社へと向かわせます。

よく晴れ渡り、凛とした空気が澄み渡る、まさにお参り日和。

境内へと向かう途中に冒頭のやり取りが。
どうやらお賽銭は小銭をありったけな模様。
台湾都市伝説でもなさそうなので、コインケースに入っていたすべての小銭を握りしめ投入。
となりではすでに賽銭を投入し、手を合わせ何やら必死に願っているつまが。
構わず二礼二拍手一礼をし、先に立ち去ります。
ややしばらくして追いかけてくる怒れるつま。

つま  「先、行くな」
わたくし「すいません」
つま  「それで、なにお願いした?」
わたくし「そういうのは言わな……」
つま  「言え!」
わたくし「家族の健康と家内の安全。あなたは?」
つま  「六億」
わたくし「ろ……まあね。そうね。それも大事ね」

小銭をたくさん投入する理由を「神様を騙せるから」なんて言っちゃうやつに六億はやってこない。
そんな野暮なことはいいません。
神の前ではせめて平穏無事でいたいもの。

そしておみくじを。
小銭を使い果たし一銭も持っていないわたくし。
100円玉を入れおみくじを引くつま。

わたくし「僕も引きたいのですが」
つま  「お金は?」
わたくし「ない。賽銭箱に全部入れた」
つま  「なんで!?」

キレるつま。

わたくし「だってたくさん入れるといいってあなたが」
つま  「10円とか1円をたくさん入れるの!」
わたくし「あのね、神様を騙せるからなんて言っちゃうやつに六億はやってきませんよ、あっ」

野暮からの猛抗議、そして猛省へと。
なんとかおみくじ代を。

つま  「どうだった? みせて」
わたくし「あい」
つま  「老公、見てこれ。同じ」
わたくし「大吉が二枚出る確率なんて知れてる。免税店で石を投げて台湾人に当たる確率くらい……これはミラクル」

またも怒れるつま。
その手には全く同じ内容のおみくじが二枚。
何たる偶然。
この確率いかほど。
この幸運を六億に使え、なんて野暮なことは言いません。
だって、面倒なことになっては一大事。

しばし見つめ合うわたくしとつま。
こんな状況、おそらく数ヶ月、いや半年ぶりくらいになるかもしれない。

わたくし「これも運命です。やはり見えない糸で結ばれているのですね」
つま  「……」

警戒心MAXなつま。
このへんは台湾人妻特有か。
それともわたくしの棒読みが原因か。

会社へと向かう車中。
つま  「確率はどれくらい?」
わたくし「なんの?」
つま  「同じおみくじ」
わたくし「僕が健康路のカフェで制服姿ではないミッシェルに出逢って恋に落ちるのと同じくらいの確率」
つま  「その人結婚した」
わたくし「……まじか、神経病(せんじんびん)」
つま  「神経病」

どうして君と出逢った確率とかさらりと言ってしまえないのか。

つま  「あと三十枚買うわ」
わたくし「ちなみに何を?」
つま  「じゃんぼ」
わたくし「……(神経病)あっそう」

全部で六十枚の300円。
もうすぐ聞けるいつものこのセリフ。

もう買わないわ

もう十数年。いつもいつもわが家は日々是好日。

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